あいみょんにとって、2020年は非常に実りの多い一年となった。もちろん、新型コロナウィルス感染症拡大の影響は大きく、春に予定していたアコースティックツアーは延期となり、アルバムリリースのスケジュールも後ろ倒しになるなど、
困難も多い一年だったことは間違いない。しかし、6月にリリースされた“裸の心”はそんな時代の中で多くの人々の心に寄り添い、新たな代表曲に。また、作詞作曲を手掛け、もともとは2017年にリリースされたシングルのカップリング曲だったDISH//の“猫”が
3年のときを経て大ヒットしたことによって、作家としての評価もいま一度高まることとなった。
あいみょん:周りのアーティストからは「運がいいね」とすごく言われたんです。ちょうどCMで曲を使ってもらえたり(2019年に発表した“ハルノヒ”が、「淡麗グリーンラベル」のCMに起用され、本人の出演も話題に)、
もともとは3年前に書いた“裸の心”が今聴いてもらえる曲になって、この状況であんまり大きな声では言えないですけど、確かに自分は運がいいなって、ポジティブに思う部分もありました。
“猫”に関しても、毎日テレビで流れてるのを聴いて、たまに不安になるんですよ。「ホンマに私が作ったんかな?」って(笑)。でもやっぱり自信にはなりましたね。嬉しかったのが、“猫”が日本レコード大賞の「優秀作品賞」に選ばれて、
私もトロフィーをもらえたんです。トロフィーめっちゃ大好きで(笑)、初めて作家としてもらったトロフィーなので、すごく嬉しかったですね。リリースする作品はもちろん提供する曲も含めて全部妥協せずにやってきたので、そういう曲が改めて注目されたのは、
やっててよかったと思いました。
11月30日からスタートした「AIMYON TOUR 2020“ミート・ミート”」は、当初の予定よりも規模を縮小して、全国5会場10公演を開催。収容人数は制限され、場内では大きな声を出せないという環境ではあったものの、
6人に増えたバンドメンバーによる音楽的な表現力の高まりと、あいみょんの「歌を届ける」という姿勢のブレのなさに胸を打たれるツアーだった。生配信もされた12月13日のさいたまスーパーアリーナ公演では、アンコール終わりに涙ぐむ姿も印象的で、
ツアーファイナルとなる12月27日のマリンメッセ福岡での公演を終えた後には、Twitterで「私、初めて音楽に助けられたよ」と呟いている。
あいみょん:今回のツアーはほぼ全公演で泣いてて(笑)。これは私だけじゃなくて、他のアーティストさんもみんなそうなんかなと思うんですけど、届けられるものがない状況がずっと続くと、どうしても自分らは必要のないもののような気がしちゃうんですよ。
もちろん、“裸の心”がたくさんの人に聴いてもらえてたのは嬉しかったんですけど、誰かが歌ってみた動画が流行る時代で、みんなに会える機会がなかなかないと、「私じゃなくてもよかったのかな?」と思っちゃったりもして。
でも、いろんな不安がある中でツアーに足を運んでくれて、声は出せないけど、客席を見るとみんなそれぞれ工夫をして、私に何かを伝えようとしてくれるんです。そういうのを見ると、家でちょっとでもマイナスな気分になったり、弱気になってた自分を叱りたい気持ちにもなったし、
とにかく「ホンマにありがとう」って伝えたい気持ちが溢れすぎて、毎回涙が溢れちゃってました。
作品を残していくことと、自分自身が人前に立って歌うこと。そのふたつの意味を再確認した一年の締め括りが、2回目の出場となる「NHK紅白歌合戦」。“裸の心”のリリース当初から、「この曲でトオミさん(アレンジを担当したトオミヨウ)と
一緒に紅白に出たい」と話していたあいみょんにとって、まさに有言実行の舞台となった。
あいみょん:1回目より緊張して、結構手が震えてました。前はまだ私の名前を知らない人がたくさんいたと思うけど、今回は“マリーゴールド”という曲があった上で、改めて出る「紅白」だったし、「絶対出たい」という気持ちがあったからこそ、
ミスりたくない気持ちも強くて。あとやっぱり「紅白」は地元の人とか親戚も喜んでくれるんですよね。
去年は家族にもほとんど会えなかったので、「テレビで私の姿見てくれてるかな?」と思ったりもして。だから、「紅白」は自分のためというよりも、トオミさんだったり、お世話になったスタッフさんたちへの恩返しみたいな感覚が大きかったかもしれない。
「私の歌声を披露する」というより、「楽曲を総合的に披露する」みたいな感じでしたね。
実りの多い活動の一方で、2020年が「ステイホーム」の一年であったのもまた事実。2016年のメジャーデビュー以来、ハイペースで作品を発表し、休むことなく走り続けてきたあいみょんにとっては、自分の足元を改めて見つめ直す機会になった。
あいみょん:家で生活をする時間が増えて、すごく集中する期間とそうじゃない期間と、バランスを取れるようになった気がします。前は一日に何曲も作ったりしてたけど、「頑張り過ぎてない?」と思ったりもして。
なので、年間に作る曲の数はちょっとずつ減ってるんですけど、今はすごくいいペースで作れてるなって。
あとは、今しかできないことをやりたいっていう気持ちがより強くなりました。3年くらい前までは、たくさん曲のストックがあることが自信になってたんですけど、やっぱり世に出せる曲は限られてるし、陽の目を浴びんと腐ってくる。
400曲ストックがあっても、今の自分がいいと思えるのは数十曲かもって思うと、それも嫌やなって。なので、今は新しい曲も作りながら、まだ眠ってる曲をいかにいい形で届けられるかをすごく考えてます。
2月17日にデジタルでリリースされたシングル“桜が降る夜は”も、詞曲が作られたのは今から3~4年前。コメントでは「レコーディング中、こんな歌詞が、こんな想いが自分の体の中にまだあったのかと、改めて思いながらちょっと胸がくすぐったくなりました。
どうしてか分からないけど、そんな自分も残したいって日々思います」と記されている。
あいみょん:歌詞を見ると「女の子」って感じがして、今の自分には全く考えられないですけど、でもそういう想いが自分にあったのは事実ですし、歌ってて違和感がないのも事実なので……こういう恋愛したかったんちゃうかなって(笑)。作った当時から、
スタッフさんにも「いいね」と言ってもらってたんですけど、その頃は私の曲作りのペースがエグかったので、「この曲いいね」と言ってる間に、「こっちはもっといいかも」って、段々埋もれていっちゃって。でも、やっぱりいい曲だから、それがやっと出てきた感じですね。
「春」というタイミングもありましたし、こういう可愛い曲は今のうちに歌っておきたいじゃないですか? もちろん、いくつになってもいろんな人生の歌を歌っていきたいと思うんですけど、特にこの曲に関しては、20代の真ん中やからこそ歌いたくて。今の自分のメンタルと、
歌いたい内容、歌いたい声のトーンとかが全部ハマる曲やなって。
田中ユウスケがサウンドプロデュースを手掛けた“桜が降る夜は”は、出会いと別れの季節である「春」を舞台に、〈桜が降る夜は/貴方に会いたい、と思います〉とストレートに願いながら、
〈真面目な顔は好きだけど 今は見たくない/新しい色に染まるのは 桜だけでいい〉と、季節の移ろいと気持ちの変化を重ねる。恋愛の高揚感と、それがゆえに不安にもなる裏表の気持ちを描いているという意味では
“裸の心”にも通じるが、曲調はポップで、ビートも軽やかに弾んでいるし、声のトーンも高くて溌剌とした印象を受ける。
あいみょん:これまで私がよく言われていたのは「男性目線のラブソング」で、そうじゃなくても「女性目線のラブソング」だったんですけど、今回は「女の子目線のラブソング」で、そういう曲が表題になることはあんまりなかったなって。
だから、みんな私のこういう曲に対する免疫がなさ過ぎて、ティザー映像も女の子っぽいビジュアルだし、「こんなあいみょん見たことない」って、結構びっくりされちゃいましたね。
メディアに出るときはいつもパンツだし、ボサボサヘアーのイメージがついてると思うんですけど、たまに「私まだ20代やんな?」と思ったりもして、普通にこういう恋愛の曲も歌いたい。
なので、全然無理はしてないし、今回もすごく自然で、逆に「私今までそんな女の子っぽい曲なかった? もうちょっと女の子女の子しようかな」って思いました(笑)。
ABEMA の人気番組「恋とオオカミには騙されない」の主題歌にもなっているこの曲について、あいみょんは「今必要な人に届いてもらえれば嬉しいです」ともコメントしている。
あいみょん:昔は「目の前にいる人全員私のことを好きになれ」と思いながら歌ってることもあったんですけど、最初からそう考えるんじゃなくて、まずは好きなように作って、
その曲が必要な人にちゃんと届けばいいなって。今回はJKに届くといいですね。私はJKに育てられたので、JKに恩返しをしていかないとダメなんですよ(笑)。タイアップを発表して、「オオカミの曲をやってくれて嬉しい!」っていう
コメントをいっぱいもらえたのは嬉しかったです。前から私のことを応援してくれてたJKは今めちゃめちゃ社会人だと思うから、令和のJKに恩返しすることになりますけど、まだまだ若い子には好かれたいので(笑)。
2021年はメジャーデビューから5年目の区切りの年であり、あいみょんは3月で26歳に。短い期間で数々の記録を塗り替えながら、記憶に残る楽曲を数多く生み出してきた稀有なシンガーソングライターは、これからどこへ向かうのだろうか?
あいみょん:堅苦しくなくやりたいので、これからも楽しくやっていきたいです。もちろん、評価をされる立場ではあるんですけど、「そんなグチグチ言わず、好きな曲聴いたらいいやん」と思っちゃうんですよね。前は私も堅苦しく考え過ぎたり、
必死になり過ぎてたこともあったと思うから、今年の目標は「焦らない」ってことでもあります。最近「北の国から」をずっと見てて、何もないところに一からお家を作ったりするのを見ながら、本来の人間の心を取り戻してるんですよ(笑)。
「どうやったら認めてもらえるのか?」と焦ってた時期もあったけど、富良野の街を見てるとそういうこともどうでもよくなる。
去年はTikTokで曲がいっぱい聴かれて、最初は「それってどうなの?」と思ったりもしたけど、そういう時代があってもいい。
私が5年前にデビューしたときは「Twitterで声をかけられました」って言うとびっくりされたけど、今やそんなことマジで当たり前になってて、私だってもう古い世代を生きてるんやなって思うと、
私より若い子たちの音楽のやり方に何にも言われへん。堅苦しく考えるよりも、「みんな楽しくやろうよ」って。
あいみょんが「ストリーミングの女王」と呼ばれたのはつい2~3年前の話だが、TikTok発のヒット曲が世の中を席巻した2020年を経た今、なんだか遠い昔のようにも感じられる。それだけシーンの移り変わりは速く、
この流れは今後さらに加速していくだろう。そして、現在の新たなシンガーソングライターのブームというのは、他ならぬあいみょんこそがその先駆けだったと言っても過言ではない。だからこそ、少しだけペースを落として、
このタイミングで自分を見つめ直すことができたのはやはり幸運だったと言える。トップランナーとしての重圧が急に消えることはないが、それでもあいみょんは2020年を通じて手にした自信を糧に、これからも創作への欲求に忠実に、活動を続けて行くはずだ。
あいみょん:この前、神田伯山さんが「アナザースカイⅡ」に出られていて、立派な落語家として称えられて死ぬのがゴールではなく、いかに若い子を育てて、落語をかっこいいと思わせて、この伝統芸能を繋いでいくかが大事だって言うことをおっしゃっていて。
師匠とかはいないけど、もはやシンガーソングライターも伝統芸能みたいなものじゃないですか? いろんな人が誰かに憧れて、繋いでいってるものではあるわけで。それを見て、私もただ「名曲を残して死ぬ」っていうんじゃなくて、私の曲に若い子が憧れて、
私みたいになりたいと思ってくれたら、めちゃめちゃ素敵やなと思って。
「あいみょんみたいになりたい」と思って、TikTokで活動を始めた子がもしいたとしたら、それはめちゃめちゃ嬉しいし、そう思うと、やっぱりこれからも楽しくやってる姿を見せたい。実際に隣に並ばれたら、むかつくと思うかもしれへんけど(笑)。
でも私が草野マサムネさんや小沢健二さんに「神様です」って言ってるのと同じような未来がもし私に来たらと思うと、それはめちゃめちゃ楽しみですね。
インタビュー&テキスト / 金子厚武
あいみょんコメント
新しい色に染まってみました。
ひとひらも桜は降ってないけど、
ひとりの桜は咲いていると思います。
春の嵐と一緒にあの人の気持ちも
飛ばされてしまったのかな、とか。
春の桜と一緒にあの人の心も
別の色に染まってしまったのかな、とか。
あの時の春、これからの春。
それぞれの春がきっとあるよねぇ。
出会いと別れの春って言うもんなぁ。
と、新宿の街で思いました。
春は、目も鼻も、心も痒いです。
山田智和監督コメント
桜色が街を駆け抜けていきます。
花もない葉もついてない都会のビルが、
どこか温かいものを常に待っているような気がします。
あいみょんはいつも優しい気持ちを歌で届けてくれます。