あいみょん：『ドラえもん』はちっちゃい頃からずっと見てたし、大人になってからは、私にとって「かわいい存在」になったんですよね。それで上京前から展示に行きまくってたし、インディーズ時代からファンの子たちも私がドラえもんが好きなのをみんな知ってるから、ドラえもんのぬいぐるみにメッセージを書いて渡してくれたり、ファンレターにもみんなドラえもんを描いてくれてたんです。だから広島公演で、昔からのファンもいる前で主題歌を担当することを発表できてすごくよかったなって。当時の写真を見返してたら、リリースイベントでファンの子たちからドラえもんの顔の花束をもらったこともあったり、本当に昔から好きやったんやなって改めて思ったし、夢が叶ったなって思いましたね。

『映画ドラえもん』の主題歌を担当することを「夢が叶った」と表現するのは、ドラえもんの声優である水田わさびとの交流も大きく関係している。インディーズ時代の楽曲を耳にした水田がライブハウスを訪れて、2人が初対面を果たしたのが2016年。それから約10年間、友情を育んできた2人にとって、映画での「共演」はまさにずっと夢に見てきた、念願叶った出来事なのだ。

あいみょん：本当に運命のようにわさびさんと10年前に出会って、ずっと応援してくれてて、主題歌をやりたい気持ちがずっとあったので、いざ決まったら感激すぎて、ここに繋がるための10年やったんやなって思いました。初めてライブに来てくださったときに、「未来ヲカエロ」って書いてあるネックレスをもらったんです。当時は上京して、メジャーデビューの直前で、マジで未来を変えなきゃいけないときにそのネックレスをもらって、ずっと大事に持ってたら、本当に未来が変わったなって。映画が公開されたら、あのネックレスをつけて観に行こうと思ってます。

あいみょんが30歳を迎える一方、『映画ドラえもん』は今年で45周年。『のび太の絵世界物語』は、絵の中の世界に飛び込んだドラえもんやのび太たちが、幻の宝石を巡って大冒険を繰り広げるお話で、あいみょんは昔から絵を描くことが好きだったりと、何かと縁を感じさせる。

あいみょん：監督さんたちとの顔合わせのときに、今回のお話で重要な役割を果たす「アートリアブルー」の折り紙をいただいたので、「青」はキーワードとしてあったのと、あとはやっぱり「絵世界物語」なので、何かしら「描く」っていう要素はあったほうがいいと思いました。ただ今回主題歌と挿入歌があって、挿入歌の方がかかる場面やテンポ感がわかりやすかったので、そっちの方が早く作れちゃったんですよね。で、実は主題歌の方は「スケッチ」と、もう一曲作ったんです。人生一回きりの『映画ドラえもん』の主題歌やし、もちろん後悔はしたくないので、「ほんまにこれでいいんかな？」って悩んで、最終的には自信を持って、「スケッチ」を完成させました。

〈外し忘れた 眼鏡の跡だって 絵になるよって 笑って言うから 瞳で世界を救える気がしちゃう〉。〈いつも傍にいてくれてる だから時々 見えなくなってしまう 片目閉じて ピントを合わす〉。のび太の顔を温かい目で見守るドラえもんと、ドラえもんとの大切な日々を描いていくのび太。あいみょんは2人の何気ない生活を大切に歌い、確かな友情を綴っていく。

あいみょん：〈外し忘れた 眼鏡の跡〉っていうワードが出たときに、めちゃくちゃいいなと思って。のび太くんは寝るとき以外、一生眼鏡をつけてるじゃないですか？だから外し忘れて跡がつくのってすごく愛おしいし、かわいいなと思って、そこから書いていきました。作品では描かれていないような、2人の日常を描きたかったんですよね。〈楽しかったね〉っていう歌い出しは、映画ではあんな大冒険をしてるけど、でも2人はきっと寝る前に〈楽しかったね〉って言ってるだろうなって、想像して書きました。もちろん、作品を超えたところでも聴かれて欲しくて、「誰かを思う愛しい瞬間」を感じてもらえると嬉しいですけど、今回に関してはドラえもんのファンならわかるワードもかなり意識していて、〈温かいその目も〉とかはファンなら「おー！」って思ってくれると思います。

田中ユウスケがサウンドプロデュースを担当した「スケッチ」は、カルテット編成のストリングスを用いた堂々たるバラード。映画主題歌らしいスケール感もありつつ、アコギのストロークとあいみょんの優しい歌声からは、日常の温かみがじんわりと伝わってくる。

あいみょん：今までもドラえもんの映画をたくさん見てきて、やっぱりドラえもんの映画のラストはバラードがいいなって、これはもう完全にファン目線ですね（笑）。作品の余韻に浸りつつ、曲の余韻にも浸れるような、これくらいしっとりしたバラードがいいなって、最初から考えてました。だからこそ、対比も含めて挿入歌の方はワクワクするような曲調にして、歌詞もドラえもん一色で、もはや自分の思い出作りでもあります（笑）。私情が入って申し訳ないですけど、ドラえもんのことについてこんなにガッツリ書ける機会なんてなかなかないですからね。

これでもかとドラえもん関連のワードが詰め込まれた挿入歌は、フォーキーかつ軽快な仕上がりに。途中までは違うタイトルを想定していたそうだが、最終的には「君の夢を聞きながら、僕は笑えるアイデアを！」という印象的なタイトルがつけられた。

あいみょん：最初は歌詞にも出てくる〈伸びた影を追いかけて〉をタイトルにしようと思ってたんです。のび太くんがジャイアンやスネ夫たちと遅くまで遊んで、帰り道に影が伸びていくイメージ。レコーディング中はみんな〈伸びた影を追いかけて〉がタイトルだと思ってたんですけど、改めて考えると、歌詞はいいけどタイトルにまでしちゃうとちょっとくどいかなって。それで別の候補を考えて、スタッフさんも私も気に入ったこのタイトルにしました。主題歌はのび太くん目線ですけど、挿入歌はドラえもん目線で、「なんでもできるよ、僕がいるよ」みたいなイメージですね。

様々なひみつ道具を出して、世界中の子供に夢と希望を与えるドラえもん。笑える曲、泣ける曲、元気が出る曲を発表して、聴き手の様々な感情を呼び起こすシンガーソングライターのあいみょん。まるでドラえもんのよう……とは言わないまでも、通じるところはあるかもしれない。

あいみょん：もちろんアイテムは出せないですけど、ドラえもんになれたらいいですよね（笑）。私は「子供たちに向けて」というつもりで曲を書いてるわけじゃなくて、もちろん大人にも聴いてほしいですけど、それこそもうすぐ30歳にもなりますし、ドラえもんが大好きな子供たちに、この曲を聴いてワクワクしてほしいし、歌ってほしいなって、そういう気持ちは昔より強くなってるかもしれないです。ちっちゃい頃に聴いて意味がわからなかったけど、大人になって意味に気づくっていう経験が私にもあるので、そういう曲になってくれたら嬉しいですね。「誰かを助けたい」と思って曲を書くわけではないですけど、結果的にいつかの誰かを助けることができたら、それはすごく嬉しいです。

試写会では、かつて「未来ヲカエロ」と書かれたネックレスをくれた水田と隣で映画を鑑賞し、そのときもまた、2人で涙を流したという。

あいみょん：ドラえもんが本当に未来を変えてくれたというか、わさびさんとあのとき出会ってなかったらこうなってなかったかもしれないし、少なくとも、熱量は全然違ったと思います。わさびさんと出会ったからこそ、この熱量でドラえもんに愛を注ぐことができた。試写会の後もわさびさんからすごく長いメッセージが来て、「あいみょんやなかったらできなかった作品やと思う」って言ってくれて、すごく嬉しかったですし、ほんまに早くみんなにも観てほしい。初めての映画になる子もいるかもしれないですし、そういう子たちの記憶にずっと残るような、ずっとドラえもんを好きでいてくれるような、そういう作品になったんじゃないかと思います。

シングルの3曲目には會田茂一のサウンドプロデュース＆アレンジによるロックナンバー「おばけがでるぞ」を収録。〈白い顔した ビーナスの宴〉〈左手に持つ赤色のエキス〉〈白い蛇を頭に巻いて〉。さて、このおばけの正体は…？

あいみょん：正解は、お母さんです（笑）。ちっちゃい頃は家が厳しくて、9時に寝ないとダメだったんですよ。で、子供たちが寝たあとに、パックをして、頭にバスタオルを巻いて、ワインを飲む、お母さんだけの宴がある。たまに子供が起きてないか廊下を見張ってるので、そういうのを「おばけ」として書いてみました。イメージとしては「みんなのうた」で、子供目線の曲なので、そういう意味では『ドラえもん』の曲とも相性がいいかなって。最初と最後のテルミンは私がやってて、初めてやらせてもらったんですけど、超面白かったです。この曲はキーボードが入ってないので、ライブではヤマケン（山本健太）がやってくれるかもしれない。

『映画ドラえもん』とともに30歳の誕生日を迎えたのち、4月からは『AIMYON TOUR 2024-25 “ドルフィン・アパート”』の追加公演がスタート。ひさびさのアジア公演も決まっていて、30代最初のライブは4月12日の台北公演。さらには韓国公演を経て、5月からは再び国内を周り、5月29日のさいたまスーパーアリーナで、トータル42本に及ぶロングツアーが幕を閉じる。

あいみょん：「愛を伝えたいだとか」が韓国でたくさん聴かれたのがもう2年前とかで、そのときも「韓国行きますか？」みたいに言われたけど、私自身はもっと日本で頑張らないとと思ってて、すぐに韓国に行きたいとは全然思ってなくて。で、多分もうブームは終わってるじゃないですか？でもそのくらいに行くのがいいというか、「愛を伝えたいだとか」が盛り上がってるときに行ってたら、その曲だけ盛り上がってたかもしれない。でも韓国の友達に話を聞くと、今は「君はロックを聴かない」も「マリーゴールド」も「ふたりの世界」もみんな聴いてるよって言ってくれてて、このタイミングでよかったなって。もちろん言葉の壁はあると思いますし、不安も全然ありますけど、「ドルフィン・アパート」のツアーで行けるから、ここまで積み上げてきたものを見せられると思うので、めちゃくちゃ楽しみです。そこからまた日本に戻ってきて、最後は達成感がすごそう。ツアーが終わったらやっと落ち着いて、来年が10周年だから、それに向けていろいろ考えられると思うんですけど、まずはとにかく無事にツアーを完走することですね。

TEXT：金子厚武